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名古屋高等裁判所 平成11年(ネ)288号 判決 2000年2月23日

三重県尾鷲市<以下省略>

控訴人

X2

三重県四日市市<以下省略>

控訴人

X5

右両名訴訟代理人弁護士

浅井岩根

小川淳

東京都中央区<以下省略>

被控訴人

野村證券株式会社

右代表者代表取締役

右訴訟代理人弁護士

川村和夫

主文

一  原判決を次のとおり変更する。

1  被控訴人は、控訴人X2に対し、金三九七万五〇二四円及びこれに対する平成元年三月九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  被控訴人は、控訴人X5に対し、金一二六六万七一二四円及び内金六一五万一三七四円に対する平成二年七月一九日から、内金六五一万五七五〇円に対する同年一一月二八日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

3  控訴人らのその余の請求を棄却する。

二  訴訟費用は、第一、二審を通じ、これを一〇分し、その一を控訴人X2の、その六を控訴人X5の、その余を被控訴人の負担とする。

三  この判決は、一項1、2に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人は、控訴人X2に対し、七二二万五〇四〇円及びこれに対する平成元年三月九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

3  被控訴人は、控訴人X5に対し、四八六四万四二五〇円及び内金二五九六万一二五〇円に対する平成二年七月一九日から、内金七三五万一五〇〇円に対する同年八月一〇日から、内金一五三三万一五〇〇円に対する同年一一月二八日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

4  訴訟費用は、第一、二審とも、被控訴人の負担とする。

5  仮執行宣言

二  被控訴人

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は控訴人の負担とする。

第二事案の概要等

事案の概要、基礎となる事実及び当事者の主張は、次のとおり訂正、付加するほか、原判決「事実及び理由」の各該当欄に記載のとおりであるから、これを引用する。

(原判決の訂正)

原判決一二頁三行目から四行目にかけて「一〇七三万二五〇〇円」とあるのを一〇七三万一五〇〇円」と改める。

(当審主張)

一  控訴人らの当審主張

1 説明義務の範囲と程度

説明義務の範囲として、①ワラント価格は株価に連動しかつ株価の数倍の動きをすること、②ワラントは権利行使期限後は無価値になることについて抽象的に説明するだけでは、ワラントのリスクを誤解のないように説明したことにはならない。

ワラントの価格は、現在の株価と権利行使価格との差額によって算出されるパリティと、今後の株価変動の気配ないし期待や、ワラントの需要と供給の事情、権利行使期限までに変動が生ずる可能性等の複雑な要因によって形成されるプレミアムを加味することによって形成されること等のワラントの価格形成の仕組みを投資家が具体的に理解できるような説明をする必要がある。

また、権利行使期限があり、これを経過するとワラントは無価値になるとの説明も、ワラントの価格変動の仕組みと一体として理解できるように説明すべきである。

さらに、ワラント取引を勧誘する場合は、その投資効率の面のみを強調すべきでなく、それに伴う重大な危険性をより十分に説明すべきで、ワラント勧誘時の現実の株価と権利行使価格との関係や、その将来的動向によるワラント価格の仕組みを個別的・具体的に説明することが不可欠である。

説明義務の程度としては、証券会社にワラント取引に際し説明書の交付のみならず確認書の徴収までを要求していることから、証券会社はワラント取引に関する定型的な一定の説明をしたことによってその義務を尽くしたとして免責されるものではなく、当該投資家がその説明を理解したことまでを要求しているものと理解すべきである。

2 控訴人X2に対する不法行為について

(一) 本件神戸製鋼所ワラント取引勧誘の経緯

(1) 控訴人X2は、ワラントが新株引受権であることを説明されたことはない。

平成元年三月八日、Dから電話があり、「いまみなさんに神戸製鋼所のユーロドルワラントというものを勧めているのですが、これを買えば相当な利益が必ずあがります。今日で締め切りです。」と勧誘されたが、ユーロドルワラントがどのようなものであるかの説明はなかった。

新株引受権とは、「一定の期間(権利行使期間)内に予め決められた金額(権利行使価格)を払い込むことによって新株を取得できる権利」をいうが、この内容を、権利行使期間、権利行使価格、数量の単位、価格の単位(ポイント)、固定為替レートと付与率(一ワラント当たり引受株数)等の要素を用いて説明することは、説明文書を用いなければほとんど不可能であり、ましてや電話で説明できるはずもない。

(2) 控訴人X2は、ワラントの価格が株価と連動して、株価が一割上がれば三割上がる、一割下がれば三割下がるというハイリスク・ハイリターンの性質を持つ商品であることを説明されたことはない。

(3) 控訴人X2は、権利行使期限を徒過すれば、投資価値がなくなることを説明されたことはない。

Dは、「いま購入すれば、必ず相当な利益が上がります。」という利益を生ずることばかりを強調し、かつ「今日で締め切りです。」と即答を迫る勧誘をしたに過ぎない。

(4) 控訴人X2は、神戸製鋼所の発行時の行使価格、適用される為替の説明をされたことはない。

権利行使価格は、ワラントが新株引受権であることを理解するキーワードであると同時に、ポイント(ワラント価格)に占めるパリティ(理論価格)を理解する前提となる。また、適用為替もポイントから価格を算出するうえで不可欠の要素である。初めての顧客にワラントを勧める場合、対面で資料を示し、メモを取りながら時間をかけて説明し、疑問点があればその場であるいは後日質問を受けて答えるという具合にしなければ、とても理解できるように説明できるものではない。株式の現物取引をしてきていてワラント取引の経験がなく、七四歳と高齢の控訴人X2に、一〇分ないし一五分程度の電話で、これらのことを説明することは不可能である。

(5) パリティとプレミアムの内容と変化のルールをよく理解することがワラント投資の第一歩であるのに、Dはこれらの言葉も話していない。控訴人X2は、Dがポイントということを言い出したので、よく分からなくなり、紙に説明を書いて至急送ってくれるように頼んでいる。

(6) 本件において、ワラント取引説明書の事前交付と確認書の事前徴収が行われていないのみならず、取引説明書は事後にも送られていない。

なお、日本証券業協会では、平成元年四月一九日付け会員通知により、説明書の事前交付と確認書の事前徴収を義務づけていた。これは説明義務を尽くすための具体的方法として、説明書を用いた事前説明、事前交付と顧客の理解を確認し自己責任を自覚させるための確認書の事前徴収を会員業者に一律に要求したものである。

(7) 控訴人X2は、Dからの電話で、旭化成、三井物産、ダイセルの各ワラント取引を行っているが、これらは本件神戸製鋼所ワラント購入後一か月くらいの間に一任の形で行われているもので、Dが控訴人X2に対し各銘柄の推奨理由を説明し、控訴人X2が購入するワラントのポイント、為替、数量等を確認したうえで、各ワラントの購入を決定したというものではない。そして、いずれもそこそこの利益を出して売却されているので、控訴人X2がワラントの商品構造や危険性を知ることもなかった。

(8) 右各ワラント購入後、Dが控訴人X2に対し、一か月に一度か二度の割合で電話連絡を取って、ワラント価格の値動きを説明したということはない。

平成二年二月にはいって初めて、一月三一日付け「外貨建ワラント時価評価のお知らせ」という書類が送られてきた。それ以前は、ワラントの値段についての話すらなく、本件神戸製鋼所ワラントについても、どうなっているのかさっぱり分からず、その値段を調べる方法も知らなかった。

控訴人X2は、この通知書を見て初めて、本件神戸製鋼所ワラントで約一六三万円も損していることを知り、びっくりしてDに電話で抗議した。そしてとにかく売却してほしいと頼んだが、Dは、「このワラントは、まだ三年先まであるので心配いりません。」と取り合わなかった。そして三年先まで期限があるとはどういう趣旨かについても説明しなかった。

その後、控訴人X2は、四、五回電話でDに問い合わせたが、「ニューヨークで株が高くなってきています。国内も今に公定歩合が下がり、機関投資家や大口投資家、それに外人買いも入ってくるので心配いりません。」と説明したので、それなりに信用するしかなかった。

控訴人X2は、ワラントのポイントについて、ワラントを購入してから、時価評価のお知らせが来るまでの間、Dとやり取りしたことはない。ポイントという言葉も知らず、ワラントの値動きを調査したこともない。Dが週に一回、控訴人X2に電話して、ワラントの値動きの話をしたということはない。

(二) 適合性の原則違反

(1) Dが、本件神戸製鋼所ワラント取引当時に担当していた顧客三〇〇〇口座のうち、ワラントの購入を勧めたのは二〇から三〇口座である。このこと自体、ワラント取引が一般投資家に適合性を認め難いことを物語っているが、わずかな現物株・投資信託・転換社債の取引の経験しかない控訴人X2が、いわゆる一般投資家のレベルを超えて、その二〇ないし三〇口座の中に入るだけの適合性を有していたとはいえない。

Dは、控訴人X2が安定的な投資の意向を有していて、先物やオプションといった危険な取引をしていないことを知りながら、コールオプションと同様の性質と危険性を有するワラントを勧誘したものである。

(2) 控訴人X2には、不動産投資、先物取引等の投資経験はなく、被控訴人と取引する前になした証券取引は、日興證券新宿伊勢丹支店で三か月くらい、二〇〇〇ないし三〇〇〇株程度の現物株の取引をしただけである。

控訴人X2は、昭和五八年一〇月から被控訴人新宿西口支店と取引を始めているが、流動資産一八〇〇万円くらいのうち六〇〇万円くらいを投資する予定で、投資する商品は、もっとも確実な一部上場企業を対象とし、株の現物を購入して値段の上がるのを待つというものであった。

控訴人X2は、昭和六三年三月に会社を定年退職し、以後は月額一九万円足らずの年金生活者となり、本件神戸製鋼所ワラント取引のころは自宅の新築で、家計に余裕資金はない状態であった。

Dは、控訴人X2の七四歳という年齢、年金生活者であること、家を新築していることを知っていたが、被控訴人のワラント取引実施要項五条によれば、不適格者として七六歳以上の者、退職者で収入のない者とあり、年齢や収入面からも控訴人はワラント取引の適合性に欠けると判断すべきであった。

(3) 控訴人X2は、新聞、雑誌、テレビ、ラジオ、書籍等から、株式投資の情報を仕入れるということもなく、証券会社担当者から提供される情報のみによって、勧められるままに証券を買ったり売ったりしていた。

控訴人X2は、本件神戸製鋼所ワラントの取引までは、Dに勧められるままに株の現物を中心に取引してきていた。本件神戸製鋼所ワラントの取引後の三回のワラント取引も、Dの勧めるままになされたものである。

控訴人X2は、株の現物取引で、あまりにDが激しく売り買いするので、断ったことはあるが、自己の相場観に基づいて主体的に注文を出したことはなく、自己の相場観に基づいてDの勧誘を断ったということもない。

(4) 以上、外貨建ワラントが一般投資家に適合しない商品であること、控訴人は当時七四歳の高齢者で年金生活者であり、一部上場の現物株に投資するという堅実な投資方針を持っていたこと、証券取引につき不十分な知識経験しかなく、受動的な注文方法に終始していたことからすれば、控訴人X2に対する本件神戸製鋼所ワラントの勧誘は適合性の原則に違反する違法なものである。

(三) 説明義務違反、断定的判断の提供及び誤解を生ぜしめる表示

(1) Dは、一〇分ないし一五分程度の電話で、「いま購入すれば、必ず相当な利益が上がります。」という利益を生ずることばかりを強調し、かつ「今日で締め切りです。」と即答を迫る勧誘をしたに過ぎず、ワラントの商品性について説明をしていない。

Dは、①ワラントが新株引受権であることも(権利行使価格と権利行使期限の意味を含む。)、②ワラントが株価と連動して、株価が一割上がれば三割上がる、一割下がれば三割下がるというハイリスク・ハイリターンの性質を持つ商品であることも、③権利行使期限を徒過すれば、投資価値がなくなることも、④本件神戸製鋼所ワラントの権利行使期限等も、何ら控訴人X2に説明していない。

そして、①ワラントの価格は、現在の株価と権利行使価格との差額によって算出されるパリティと、今後の株価変動の気配ないし期待や、ワラントの需要と供給の事情、権利行使期限までに変動が生ずる可能性等の複雑な要因によって形成されるプレミアムを加味することによって形成されること等のワラントの価格形成の仕組みを具体的に理解できるような説明も、②権利行使期限の意味をワラントの価格変動の仕組みと一体として理解できるような説明も、③本件神戸製鋼所ワラントの権利行使価格と権利行使期限や運用される為替等の説明も、全くなされていない。

要するに、ワラントの投資効率の面のみが強調され、それに伴う重大な危険性が何ら説明されておらず、本件神戸製鋼所ワラントがハイリスクであるという意味が、個別的・具体的に説明されていない。

(2) 控訴人X2は、転居の際に電話による取引形態になることを承知で新宿西口支店との取引を希望し、それ以降、本件神戸製鋼所ワラント購入まで、電話で、株式現物、投資信託、転換社債の取引をしているが、新宿西口支店との電話での取引を希望したのは、株式現物程度のリスクの取引継続を前提としたものであるに過ぎない。

そして、控訴人X2は、被控訴人の担当者Dを信頼してきたもので、一〇分から一五分程度の電話で勧められた本件神戸製鋼所ワラントについてもその大きな危険性を何ら説明されていない。説明書は、控訴人X2の依頼にもかかわらず送られてこず、確認書だけが送られてきた。説明書が入っていないので、Dに電話したが、Dは「今日は忙しくて送れなかったので、後日送ります。」と言ったままで、その送付をしなかった。

(3) Dは、株価が下がった場合には、それより大きな割合で下がる可能性について何ら説明していないし、ワラントの価格は、現在の株価と権利行使価格との差額によって算出されるパリティと、権利行使期限までの複雑な要因によって形成されるプレミアムによって形成される等ワラントの価格形成の仕組みを具体的に理解できるような説明も全くしていない。権利行使期限を徒過すれば投資価値がなくなることも説明していないし、権利行使期限の意味をワラントの価格変動の仕組みと一体として理解できるような説明もしていない。

また、控訴人X2は株式現物取引でそれまでに三割を超える損失を被った経験はあるが、本件神戸製鋼所ワラント取引の説明義務違反の存否とは何ら関係がない。なぜなら、投資価値が零になる危険性がかなりあるワラントにつき、そのことを十分に分かるように説明されていれば、それまで株式現物の取引以外には投資信託と転換社債の取引の経験しかない控訴人X2が、そのようなハイリスクの取引をすることは考えられないからである。

さらに、本件神戸製鋼所ワラント購入当時いくら右肩上がりの傾向があったとしても、その傾向がいつまで続くかは誰にも分からないことであり、控訴人X2はワラントのようなハイリスクの取引をすることは考えていなかったし、本件神戸製鋼所ワラント取引後の三つのワラント取引も、本件神戸製鋼所ワラント購入後一か月くらいの間にDの勧めるままに一任の形で行われているもので、いずれも多少の利益を上げた程度なので、控訴人X2がワラントの商品構造や危険性を知るということもなかった。

(4) ワラントは、単に価格変動が大きいというだけではなく、株式におけるデフォルトリスクに相応するリスクが桁違いに大きい。株式のように会社が潰れなければ配当をもらいながらいつまでも値上がりを待つというわけにはいかない。ワラント購入後に株価が一旦上がってその後下がっていった場合に、一度利食いの売却のチャンスを逸するといかにして権利行使期限までに損失を少なくするか極めてシビアな判断を迫られ、その判断を誤ると権利行使期限を待たずにほとんど無価値となりそのまま期限を迎えることになる。

控訴人X2は、尾鷲という田舎で年金生活を送っていたもので、右のようなワラントの危険性を理解できるようにDから説明されていれば、決して本件神戸製鋼所ワラント等を購入していない。控訴人X2は、ワラントのリスクを理解しながら、株価の暴落を予測し得なかったことによって損害を被ったというものではない。

(5) 以上、控訴人X2に対する本件神戸製鋼所ワラントの勧誘は、説明義務に違反し、断定的判断の提供や誤解を生ぜしめる表示にもあたる違法なものである。

3 控訴人X5に対する不法行為について

(一) 本件ヨミウリランドワラントの購入に関して

(1) 控訴人X5は、本件ヨミウリランドワラントを「社債のようなもの」と説明を受けたものであり、かつ、三菱信託銀行転換社債の取引によって利益を得たことがあったことから、Fの「確実に儲かる」との説明と相まって、借入をしてでも投資しようと判断したものである。

右の判断は、経済行為として、合理性を有するものである。

(2) 控訴人X5は、被控訴人から送付されたワラント取引説明書を読んで、ワラントが場合によっては無価値になることを初めて知り、Fにこれを問い質したところ、同人から「大丈夫です。私を信用して下さい。今まで損をさせたことがありますか。」と言われたために、それ以上問い質さなかったものである。

控訴人X5は、企業経営者という見識のある立場にあったうえ、Fに対しても誠実で信頼の置ける人物であるとの判断をしており、しかもFの勧めによってそれまで売買した証券は、いずれも利益を計上していたこともあって、控訴人X2のFに対する抗議は強いものではなかった。

(3) 控訴人X5は、ワラント取引説明書の受領後に、「私の判断と責任において国内新株引受権証券及び外国新株引受権証券の取引を行います。」との記載のある取引確認書(乙四三)に署名押印して被控訴人に返送しているが、控訴人X5が右確認書に署名押印したのは平成二年七月二三日ころであるので、右のとおり返送したことが、控訴人が本件ヨミウリランドワラントについて一定の理解を有して本件ヨミウリランドワラントを購入したことに結びつくものではない。

控訴人X5は、平成二年七月二三日ころには、ワラントが社債とは異なった商品であり、無価値になる危険性があるとの認識を有するようになってはいたが、ワラント価格が下落したことを身を以て体験していなかったので、ワラントが無価値になることを観念的には理解しつつも、ワラントのリスクについての懸念は杞憂であって現実化することはまれであると考え、事後的に確認書に署名押印して送付したものである。

(4) 控訴人X5は、ワラント購入資金を株式会社百五銀行から借り入れる際も、ワラントについて正確な理解をしていなくて、株式会社百五銀行支店長代理のJに対し、「ワラントは社債のようなものである。野村證券のいうのは安全らしい。」等と説明している。実際、借入申込書には、資金使途につき、「ワラント債」と記載されてもいる。

(5) 控訴人X5は、Fが具体的な銘柄を推奨するのに対して直ちに取引に応じないこともしばしばあったが、それは、個々の銘柄の株価の推移、企業業績見込み等を調べて、投資対象を選択していたことによるのではなく、購入資金を会社からの借入でまかなっていた関係で、購入するか否かを専ら会社に余裕資金があるかどうかによって判断してきたからである。

このような控訴人X5の投資スタンスを前提とすれば、かなりの信頼を寄せていたFから「社債のようなもので安全である。」ことを念押しされ、儲かることを強調されたならば、多少の危惧を有しながらも、その勧誘に追随し、商品の性格について曖昧な理解しかないまま、二五〇〇万円もの投資をしたことも、格別不自然ではない。

(二) リコーワラントの購入に関して

リコーワラントについては、控訴人X5の承諾なく、無断で売買されたものである。

控訴人X5が、リコーワラントの無断購入を知った時点で、本件ヨミウリランドワラントやリコーワラントについて損失が生じていることを認識してなかったため、Fから「リコーのほうが儲かる。」と言われて、これを一旦は宥恕した。

しかし、控訴人X5は、平成二年八月に入ってまもなく、「時価評価のお知らせ」(甲五一)を見て、Fに対して「ひどい、騙しているのではないか。」等と強く抗議する一方、さらに売却する方がよいのではないかと問い質した。Fは、控訴人X2の抗議を少しでも解消する意図のもとに、チャート(甲五四の1、2)を送ってきた。Fは、それまで、ワラント価格の動きについて何ら具体的な説明をしていなかった。

二  被控訴人の当審主張

1 説明義務の範囲と程度について

証券会社が顧客にワラント購入の勧誘をする際、証券会社において、一般的に如何なる顧客に対しても、一律にワラントについて、①ワラントの意義、②権利行使価格、権利行使期間の意味、権利行使による取得株式数、③外貨建ワラントの価格形成のメカニズム、及びそれがハイリスクな商品であり、無価値になることもあることの説明確認をする義務を負わなければならないような法律的根拠がないことはもとより、右の事項についても、これを一般的に説明しなければならない義務を負っているものではない。

ワラント説明書と確認書制度は、日本証券業協会の公正慣習規則第九条(六条三項)に定められており、同条項にいう新株引受権証券の取引に関する確認書は、顧客がワラント投資をするについては、証券会社が交付した説明書を読み、自己の判断と責任において行うことを確認するというものであり、投資家の自己責任について注意を喚起するものである。このようにいわゆる自己責任原則を確認する必要があるのは、証券取引法の目的であるところの有価証券取引の公正と有価証券の円滑な流通の実現、維持にとって、市場参加者たる顧客において、その原則をふまえた投資行動が行われることが望ましいからである。ワラント説明書と確認書制度は、そのような公益達成のための一制度であって、ワラントに投資する個別具体的な顧客が損失を被らないように配慮して、あるいは説明義務を尽くすための具体的方法として、証券会社に義務づけられているものではない。

証券会社は、有価証券の売買を成立させることを業とし、取引の成立に向けて努力するのであって、推奨する取引の対象となっている商品についても、それを顧客に購入してもらう限りにおいて必要な説明はサービスとして事実上行っており、また、具体的な銘柄の推奨にあたっては、相場動向との関係におけるその価格の騰落見込みについての意見を述べることもあるが、それを超えて、一般に如何なる投資が個々の顧客に適当であるか等についての助言をするとか、ある種の有価証券の価格形成の仕組みや、ある投資商品ないし銘柄の投資価値を細かく分析して、その説明をなすといった義務を負担する根拠は全くない。

2 控訴人X2に対する不法行為についての反論

(一) 本件神戸製鋼所ワラント取引勧誘の経緯

(1) 控訴人X2は、ワラントが新株引受権であること、すなわちワラントが「一定の期間(権利行使期間)内に予め決められた金額(権利行使価格)を払い込むことによって新株を取得できる権利」である旨の説明を受けている。

(2) 控訴人X2は、ワラントの価格が株価と連動して、株価が一割上がれば三割上がる、一割下がれば三割下がるというハイリスク・ハイリターンの性質を持つ商品であることの説明を受けている。

(3) 控訴人X2は、権利行使期限を徒過すれば、投資価値がなくなることの説明を受けている。控訴人X2は、権利行使期限を徒過すれば、投資価値がなくなるとの認識を有していたが、ただ価格動向についての予測がはずれたものである。

(4) 本件において、取引説明書は送付されている。

(5) ワラントの投資方法にまで及んで詳細かつ複雑な説明を証券会社がしなければならないという誤った前提に立たなければ、ワラントの商品説明としては、電話で一〇ないし一五分あれば十分である。

(二) 適合性の原則違反

(1) 控訴人らが主張する適合性の原則なるものがあるとする根拠はない。

(2) 控訴人X2の年齢において家を新築していることは一般には資力があることを推定させる。

また、控訴人X2は、株式投資の判断能力があることを自認しているのであり、実際、神戸製鋼所という銘柄で株式とワラントとをいずれも買い付けたのであって、株式とワラントとの区別が付かないとか、ワラントのリスクを理解していなかった等ということはあり得ない。

したがって、適合性原則なるものがあるとしても、本件においては、その違反はない。

(三) 説明義務違反、断定的判断の提供及び誤解を生ぜしめる表示についての反論

控訴人X2の説明義務違反、断定的判断の提供及び誤解を生ぜしめる表示についての主張は争う。控訴人X2の損失は、株価の暴落を予測し得なかったことに起因するものである。

3 控訴人X5に対する不法行為についての反論

(一) 本件ヨミウリランドワラントの購入に関して

(1) 控訴人X5は、株式会社百五銀行から借入れた金員をもって本件ヨミウリランドワラントの購入代金に当てているものであるが、平成二年七月当時、社債の利率は銀行の借入金利とほぼ同じであり(乙七四、七五)、銀行借入金をもって「債券」を購入する経済的メリットはなく、会社経営者である控訴人X5が、この点に関する検討のないまま、ワラントの購入を決断したものとは考えられない。すなわち、控訴人X5は、社債のようなものではなく、危険はあるが大きな利益を上げる可能性があるものと認識して、本件ヨミウリランドワラントを購入したものにほかならない。

また、一般に、社債と言えば普通社債を指し、特に転換社債を意味する場合には、それとして断ることが通常である。少なくとも、被控訴人の営業担当従業員は、転換社債を普通社債と明確に区別して、株式やワラントと一括してエクイティと総称している。したがって、Fが、転換社債と同じようなものとして、「社債のようなもの」と説明をしたということはありえない。

(2) 控訴人が本件ヨミウリランドワラントを購入した後遅くとも一週間内に受領したワラント取引説明書には、「ワラントは期限付の商品であり、権利行使期間が終了したときに、その価値を失うという性質をもつ証券です。」「ワラントの価格は理論上、株価に連動しますが、その変動率は株式に比べて大きくなる傾向があります。」等と、ワラントの持つ性質、リスクが明確に謳われているにもかかわらず(乙三三)、Fから「大丈夫です。私を信用してください。」と言われただけで、それ以上質さなかったのは不自然である。

むしろ、控訴人X5は、本件ヨミウリランドワラント購入前からワラントが無価値になりうることを観念的には分かっていたが、本件ヨミウリランドワラントについては、その予想をしなかったFの判断を採用したに過ぎない。

(3) 控訴人X5は、ワラント購入資金を株式会社百五銀行から借り入れており、その際株式会社百五銀行の担当者が納得のいくような説明をしたとみるのが自然である。

また、控訴人X5は、Cから大林組ワラントについての詳細かつ具体的な説明を受けているが、その際、Fによるワラントについての説明との相違を主張したり、ワラントについてそのような認識を持っていなかった等と述べたことはなく、かえって、本件大林組ワラントを購入している。

Cは、控訴人X5に対し、ワラントについての一般的な説明はしていないものの、大林組ワラントについて詳細かつ具体的な説明をしており、その説明は、ワラントについての一般的な説明を知らなければ理解できないはずである。

右の各事情も、控訴人X5が、Fの説明によって、ワラントについて一定の理解を有していたことを裏付けるものである。

(4) 個々の銘柄の株価の推移、企業業績見込み等を調べて、投資対象を選択することは、主体的な取引態度の一態様であるが、営業マンの提供する情報や判断について、自ら考え吟味したうえでその採否を決定するのも主体的な取引態度である。控訴人X5は、この意味での主体性に欠けるところはなかった。

また、購入資金を会社からの借入でまかなっていた場合には、購入するか否かの判断は会社に余裕資金があるかどうかによって左右されうるが、それが専らの判断理由になるということはありえない。いずれの投資家の場合も、銘柄についての具体的投資判断と資金事情の双方が相まって投資の可否が決定されるのである。

(二) リコーワラントの購入に関して

リコーワラントは、無断売買ではない。無断売買であったとしても、控訴人X5は追認している。

(三) 損害額について

本件ヨミウリランドワラントの買付金額は二五九六万一二五〇円で、大林組ワラントの買付金額が一〇七三万一五〇〇円で、リコーワラントの買付金額は七三五万一五〇〇円であるが、リコーワラントの買付金額の一部である六八二万九二五一円については、本件ヨミウリランドワラントの一部の売却代金から支払われているので、その分は損害から控除されるべきである。

第三当裁判所の判断

一  ワラントの意義及び証券会社の注意義務について

1  ワラントの意義について

右についての認定、判断は、原判決六三頁五行目冒頭から六七頁一〇行目末尾までと同一であるから、これを引用する。

2  証券取引の投資勧誘における証券会社の注意義務について

右についての認定、判断は、原判決六八頁一行目冒頭から七二頁一一行目末尾までと同一であるから、これを引用する。

二  争点2(控訴人X2に対する不法行為の成否及び損害額)について

1(一)  前記基礎となる事実に、証拠(甲二、四三ないし四七、八三、乙二、一六ないし二〇、二一の1、2、二二の1、2、二三、二四、四二、八五、原審証人D、原審における控訴人X2本人)並びに弁論の全趣旨を総合すると、以下の事実が認められる。

(1) 控訴人X2(大正三年○月○日生)は、青果商や乾物商等を営んだ後、昭和四一年ころ、東京都新宿区所在のc株式会社に入社し、主に商品管理を担当し、昭和六三年三月、流通サプライ課の課長職を最後に退職し、以後、月額一九万円程度の年金で生計を立てている。控訴人X2の退職当時の年収は、約四〇〇万円であった。

控訴人X2は、昭和五八年一〇月ころ、それまで取引をしていた日興証券株式会社に加えて、被控訴人新宿駅西口支店とも証券取引をするようになり、以後、本件神戸製鋼所ワラントを購入した平成元年三月までにも、流動資産約一八〇〇万円のうち、約一〇〇〇万円程度を運用資金として、三菱瓦斯化学株や三井金属鉱業株等の証券取引を数十回にわたって行っており、藤倉電線株で一〇〇万円以上(約七割五分)の利益を得たのをはじめ、一銘柄で三割以上の損益を計上する証券(株式)取引も多数回行っていた。

被控訴人は、昭和六三年五月に控訴人X2から住居を東京都世田谷区から肩書地である三重県尾鷲市内に変更する旨の住居変更届を受領したため、三重県内の支店を紹介しようとしたが、控訴人X2の希望により、取扱店を変更することなく、新宿駅西口支店を通じて控訴人X2との取引を継続した。

(2) Dは、控訴人X2が平成元年三月七日に、それまで買い付けていた神戸製鋼所株式六〇〇〇株に加えて、同株式五〇〇〇株を代金約四五〇万円で買い付けたため、翌八日、控訴人X2に架電し、株式より株価が値上がりしたときにより大きく値上がりする可能性があるワラントという商品がある旨を述べて、神戸製鋼所ワラントの購入を勧誘した。その際、Dは、控訴人X2に対して、今ワラントは非常に大きなにぎわいを見せており、銘柄としては神戸製鋼所ワラントが、株価の上昇も続いており、今後も値上がりする見込が強い旨述べて、リターンを大きく得られる可能性があるものとしてこれを推奨した。しかし、Dは、控訴人X2に対し、ワラントが新株引受権であること、その価格が株価と連動して、株価が一割上がれば三割上がる、一割下がれば三割下がるというハイリスク・ハイリターンの性質を持つ商品であること、権利行使期限を徒過すれば、投資価値がなくなること、神戸製鋼所の株価や発行時の行使価格、適用される為替等の説明をしなかった。

控訴人X2は、電話により、Dの推奨するままに、当時保有していた日本鋼管株五〇〇〇株と三菱金属株二〇〇〇株を売却した代金で、本件神戸製鋼所ワラントを六〇二万五〇四〇円で購入することを決めた。右電話は一〇分ないし一五分程度のものであった。

このときDは、控訴人X2に対し、ワラント取引には、外国証券口座開設のための書類やワラント取引確認書が必要になることを説明し、署名、押印をして返送するよう依頼した上、翌日ころ、被控訴人が控訴人X2に対しワラント取引説明書及びワラント取引に関する確認書を郵送したところ、平成元年三月一〇日ころ、控訴人X2は、被控訴人に対し、外国証券取引口座設定約諾書及びワラント取引に関する確認書(乙一六)を自ら署名、押印の上、返送した。右取引説明書には、ワラント取引の仕組みやそのリスクについての記載がなされていたが、控訴人X2はその内容を理解していなかった。

その後も控訴人X2は、Dの推奨するままに、平成元年三月二九日に旭化成ワラント二〇ワラントを代金三六九万七三七五円で、同年四月四日に三井物産ワラント二〇ワラントを代金三八五万四一〇〇円で、同月一一日にダイセルワラント一〇ワラントを代金二二九万二一八一円でそれぞれ購入し、同年四月三日に旭化成ワラント二〇ワラントを代金四一六万五九三〇円で、同年一二月五日に三井物産ワラント二〇ワラントを代金四二二万八三〇八円で、同年四月一九日にダイセルワラントを代金四二二万八三〇八円でそれぞれ売却した。

その後、Dは、控訴人X2に対し、一カ月に一度か二度の割合で電話連絡をとり、ワラント価格の値動きも説明した。Dは、平成元年六月五日には、本件神戸製鋼所ワラントをセコムに乗り換えたらどうかと勧めたところ、当時本件神戸製鋼所ワラントを処分すると一〇〇万円の損失が生じることから、控訴人X2がこれを承諾しなかったということもあった。

平成二年二月になって、被控訴人から控訴人X2に対し、「外貨建てワラント時価評価のお知らせ」が送付されてきた。控訴人X2は、右「外貨建てワラント時価評価のお知らせ」を見て、本件神戸製鋼所ワラントで約一六三万円の損失が出ていることを知り、Dに電話で「どうしたらよいか。」とその対応を相談したところ、Dが「このワラントは、まだ三年先まであるので心配いりません。」と答えたことがあった。なお、右「外貨建てワラント時価評価のお知らせ」の裏面には、ワラントが新株引受権であること、株価と連動して価格が上下するが、その上下する幅は株価の変動よりも大きいこと、権利行使期限があり期限が過ぎたときにはその価値を失うこと、為替相場の影響を受けること等が記載されていたが、控訴人X2はその内容を理解していなかった。

その後も、三か月毎に被控訴人から「外貨建てワラント時価評価のお知らせ」が控訴人X2に送付され、Dも、控訴人X2に対し、一カ月に一度か二度の割合で電話連絡をとっていたが、Dは、本件神戸製鋼所ワラントについて、「ニューヨークで株が高くなってきています。国内も今に公定歩合が下がり、機関投資家や大口投資家それに外人買いも入ってくるので心配いりません。」等と答えていた。

(二)(1)  以上の認定に対し、控訴人X2は、「ワラント取引説明書の送付を受けていなかったが、ワラント取引確認書への署名、押印をした。」旨主張し、原審における本人尋問においてもその旨供述するが、控訴人X2が署名、押印の上、被控訴人に返送したことを自認する「ワラント取引に関する確認書」は、もともとワラント取引説明書の一部としてこれと一体となった形状のものであったこと(乙一六、弁論の全趣旨)からすると、控訴人X2の右主張は採用できない。

また、控訴人X2は、「本件神戸製鋼所ワラントの価格の値下がりを知ったのは、平成二年三月になってのことである。」と主張し、原審における本人尋問においてもその旨供述するが、控訴人X2は、被控訴人との間で、本件神戸製鋼所ワラントを購入した後も平成元年中に、Dを窓口として九銘柄にも及ぶ証券取引を行っているのであり(乙二、弁論の全趣旨)、右各取引の際、控訴人X2が最も関心のあるはずの保有銘柄の価格動向を一度も問い質さない等という事態は想定し難く、また、Dが敢えてこれを秘匿したり、虚偽の情報を伝えた等といった事情も認められないことからすると、控訴人X2の右主張は採用できない。

(2) 被控訴人は、「電話で本件神戸製鋼所ワラントの購入を勧誘した際、Dは、ワラントが新株引受権であること、株価と連動して、株価が一割上がれば三割上がる、一割下がれば三割下がるというハイリスク・ハイリターンの性質を持つ商品であること、権利行使期限を徒過すれば、投資価値がなくなること等を説明した上、本件神戸製鋼所ワラントは権利行使期限まで四年ほどあり、リターンを大きく得られる可能性があることを述べた。」旨主張し、原審証人Dも、「控訴人X2に対し、平成元年三月八日、電話で、「株式より株価が値上がりしたときにより大きく値上がりする可能性があるワラントという商品がある。ワラントは新株引受権である。その価格は株価と連動して、株価が一割上がれば三割上がる、一割下がれば三割下がるというハイリスク・ハイリターンの性質を持っている。権利行使期限があるので、権利行使期限を徒過すれば、投資価値がなくなる。」とワラントの商品性について説明した上、「今ワラントは非常に大きなにぎわいを見せており、銘柄としては神戸製鋼所ワラントが権利行使期限まで四年ほどあって、株価の上昇も続いており、今後も値上がりする見込が強い旨述べて、リターンを大きく得られる可能性がある。」としてこれを推奨した。そして、控訴人X2の持っている株式の範囲内で購入したらどうかと話をし、NKKの株式を売ると二二ワラントを三二ポイントで購入できると述べたうえで、神戸製鋼所の株価や発行時の行使価格、適用される為替等の説明もした。控訴人X2の承諾が得られたので、「ワラント取引確認書及び外国証券口座の約諾書も必要となり、送付しますので、署名押印のうえ返送して下さい。」との話をした。この電話は、一〇分ないし一五分くらいであった。」旨供述するが、当時七四歳で、従前ワラントの取引の経験のなかった控訴人X2に対し、一〇分や一五分程度の電話で、ワラントの商品性について説明し、かつ、神戸製鋼所の株価や発行時の行使価格、適用される為替等の説明をしたうえ、神戸製鋼所ワラントを推奨したというのは、ワラントの商品性自体かなり複雑なものであることからすると、にわかに信用できない。

2  そこで、本件神戸製鋼所ワラントの取引の勧誘行為の違法性について判断する。

(一) 引用にかかる原判決の説示のとおり、ワラントは、一定の条件で発行会社の株式を引き受けることができる権利であり、一定期間が経過すると無価値になり、価格変動が大きいハイリスク、ハイリターンな金融商品である。

(二) このようなワラントを勧誘するにあたっては、被控訴人又はDは、このようなワラントの特徴及び前記認定の控訴人X2の職業、投資経験、投資目的等に鑑み、控訴人X2がワラントの危険性につき的確な認識を形成するため、①ワラントの意義、②権利行使価格、権利行使期間(権利行使による取得株数)の意味、③外貨建ワラントの価格形成のメカニズム、及びハイリスクな商品であり、無価値となることもあることについて十分説明し、控訴人X2がそれらについて的確に認識できるようにすべきであったというべきである。

(三) しかるに、前記二1(一)で認定のとおり、Dは、控訴人X2を勧誘するにあたり、電話で「株式より株価が値上がりしたときにより大きく値上がりする可能性があるワラントという商品がある。」と言ったのみで、それ以上に右①ないし③の点につき何らの説明をしなかったものである。

そして、控訴人X2は、本件神戸製鋼所ワラントを購入した当時、保有する流動資産は一八〇〇万円に上り、しかも、それまでに被控訴人ほか一社の証券会社との間で多数回の株式取引をしていたという事情は存するものの、控訴人X2がそれまでワラント取引をした経験がないこと、控訴人X2が年金生活者で七四歳であったこと、ワラントには株式の取引とは違った特質があることを考慮すれば、Dが控訴人X2にワラントを勧誘するに際し、右①ないし③の説明を省略したり簡略にしても差し支えなかったとは認め得ない。

そうとすれば、本件神戸製鋼所ワラントの取引におけるDの勧誘は、ワラントを勧誘するにあたっての注意義務に違反したもので、違法なものというべく、Dの使用者である被控訴人は、Dの違法な勧誘に応じてなされた本件神戸製鋼所ワラントの取引により損害を被った控訴人X2に対して、民法七一五条によりその損害を賠償すべき責任を負うというべきである。

3  損害について

(一) 前記二1(一)で認定のとおり、Dの勧誘により、本件神戸製鋼所ワラントは、六〇二万五〇四〇円で買い付けられたものであるので、その買付代金に相当する六〇二万五〇四〇円は、Dの違法行為による損害であると認められる。

(二) 前記二1(一)認定のとおり、控訴人X2は、ワラントの意義やワラント取引の特徴について理解しないまま本件神戸製鋼所ワラントを購入したことが認められるが、その原因は、主としてDからワラントの特徴について説明を受けなかったことによるものであるものの、控訴人X2も、年金生活者で七四歳と高齢であったとはいえ、株式取引の経験もあったのであるから、そのワラント取引の前にワラント取引説明書の交付を求め、それをもとにして、ワラントの意義、ワラントの価格とその変動、ワラントが場合によっては投資金額の全額を失うこと等、ワラントの性質につき、正確な理解を得るよう努力すべきであったことを否定することはできない。

もともと、投資家は、自らの判断及びリスク負担により、各種投資商品に対して投資するものであり、その投資判断の前提である投資商品の内容、性質等について調査すべきであって、投資家がこれをなさなかった場合にはその損害の発生について落ち度があったというべきである。

そして、控訴人X2の右の落ち度のほか、Dの勧誘行為の違法性の程度、その後のワラントの取引で利益を得たものもあること、Dが本件神戸製鋼所ワラントの処分を勧誘したこともあること、その他本件に現れた諸般の事情を考慮すると、過失相殺として、控訴人X2の損害額の四割を減ずるのが相当であり、その損害額は三六一万五〇二四円となる。

(三) 本件と相当因果関係のある弁護士費用は、三六万円が相当であると認める。

三  争点5(控訴人X5に対する被控訴人の不法行為の成否)及び同6(控訴人X5の被控訴人に対する不当利得返還請求権の有無)について

1(一)  前記基礎となる事実に、証拠(甲四、四八ないし五二、五三の1、2、五四の1、2、五五の1ないし3、五六の1ないし3、五七の1ないし3五八の1、2、五九、七九、乙四、三三、四三ないし五四、七四の1、2、七五の1、2、原審証人C及び同F、原審における控訴人X5本人)並びに弁論の全趣旨を総合すると、以下の事実が認められる。

(1) 控訴人X5(昭和二四年○月○日生)は、昭和四六年三月にj学院大学経済学部を卒業し、約二年半の間、繊維関連の会社に勤務し、昭和四九年に実父の経営する「k商店」(その後、株式会社に法人化されている。)に入り、昭和五八年に「k商店」(平成元年三月に株式会社k1に社名が変更されている。)の代表取締役に就任した。株式会社k1は、従業員三八名、年商五億円の寝装衣料の製造販売等を業務とする会社であり、控訴人X5は、同社から月額一二五万円の給与の支払いを受けている。また、控訴人X5は、月額六五万円の賃料収入がある。

控訴人X5は、昭和六二年一〇月ころから昭和六三年八月ころまでの間、日興証券株式会社四日市支店を通じて取引を行い、一〇〇万円から三〇〇万円程度の範囲で、証券投資を行っていた。その後控訴人X5は、昭和六三年四月ころからFの投資勧誘を受けるようになり、同年八月ころに三菱信託銀行の転換社債を代金五〇〇万円で購入したのをはじめ、平成元年一二月にドイツ銀行株一〇株を代金約六〇万円で購入する等、平成二年七月に本件ヨミウリランドワラントを購入するまでの約二年間に、被控訴人四日市支店を通じて数回の転換社債の売買や株式の売買を行っていた。その間、控訴人X5は、Fから二日に一回の割合で電話又は面接による投資の勧誘を受け、平成二年六月一日には、スター精密株三〇〇〇株を自らが経営する会社からの借入金約九九五万円で購入し、これを約一か月後には売却して約四〇万円程度の利益を上げるとともに、その際前記ドイツ銀行株を売却して約一〇万円弱の利益を上げ、これら売却代金の一部を再び証券投資に回し、平成二年六月二九日にタカラ株一〇〇〇株を代金約五〇〇万円で購入する等の取引をしていた。

(2) Fは、平成元年の秋口ころからワラントを扱い始めたものであるが、控訴人X5に対し、平成二年七月一六日ころに、電話で、「値上がりが確実で大きく見込めるワラント債というものがある。信用取引と違って危険はありません。金額が大きく、二五〇〇万円の投資額になりますが、是非買って下さい。」等と言って、ワラントの勧誘をした。控訴人X5が金の余裕がないと言って断ろうとすると、Fは、「今すぐ借りて下さい。」と強く断言したため、控訴人X5はこれを了承した。なお、Fは、控訴人X5に対し、右の電話でのやり取りで、ワラントが、新株引受権付債券として発行されたものから債券の部分が切り離された残りの新株引受権を売買するものであること、株式に比べて価格の変動が大きいハイリスク・ハイリターンの商品であること、権利行使期限があり、これを過ぎれば価値がゼロとなること、外貨建ワラントは約定金額が為替の影響を受けること、売り手、買い手が被控訴人であるいわゆる相対取引であること等の説明を全くしなかった。

そこで、控訴人X5は、平成二年七月一六日に、ヨミウリランドワラント一〇〇単位を二五九六万一二五〇円で購入することとなった。

しかし、控訴人X5は、その購入したものが債権の一種であるワラント債であると考えており、平成二年七月一七日に株式会社百五銀行に対し二五〇〇万円の借入の申込をした際の申込書(甲四九)の資金使途の欄に、「東京読売ランドワラント債購入資金」と、返済資源・方法の欄に「本件債券売却により返済」とそれぞれ記入していた。そして、控訴人X5は、平成二年七月一九日に、株式会社百五銀行から二五〇〇万円の短期の借入を受け、本件ヨミウリランドワラントの代金二五九六万一二五〇円を被控訴人に支払った。

その後、控訴人X5は、平成二年七月二四日ころ、「国内新株引受権証券取引説明書」及び「外国新株引受権証券取引説明書」を受領し、「国内新株引受権証券及び外国新株引受権証券の取引に関する確認書」(乙四三)に署名、押印した上、これを被控訴人に返送した。右説明書には、ワラントが期限付の商品であり、権利行使期間が終了したときに無価値となること、株式に比べ価格変動の大きいハイリスク・ハイリターンの商品であること等が記載されていた。

控訴人X5は、右説明書を読み、ワラントが期限が来れば無価値になることを知り、Fに対し、電話で「話が違う。危ないものじゃないか。」と言ったところ、Fが、「私があなたに嘘を言ったことがありますか。今まで損をさせたことがありますか。私を信用して下さい。安心して下さい。」と述べたことから、Fを信用して右の確認書を返送した。

(3) Fは、平成二年八月三日ころ、控訴人X5に架電し、リコーワラントの購入を勧誘した。控訴人X5は、Fの勧めるままに、同月二日に売却したタカラ株一〇〇〇株の代金五三〇万七三八五円の一部と当時値下がりし始めていた本件ヨミウリランドワラント(一〇〇ワラント)の一部である三〇ワラントを同月三日に売却した代金六八二万九二五一円を購入資金として、代金七三五万二五〇〇円で本件リコーワラント(五〇ワラント)を買い付けた。

(4) Fは、平成二年八月ころ、控訴人X5に架電し、「とにかくこれから送付されるものを見て驚かないで下さい。湾岸戦争が終われば元に戻ります。ヨミウリランドワラントは一〇〇〇円単位で動く物件です。もうしばらく待って下さい。」と伝えてきた。

その後しばらくして控訴人X5方に「ワラント時価評価のお知らせ」という書類が届き、控訴人X5は、購入したワラントにかなりの値下がりが生じていることを知り、ワラントが非常に価格の変動が激しい商品であることを実感した。

そこで、控訴人X5は、Fに対し、架電し、「もう今すぐ売った方がよいのではないか。」と話したところ、Fは、「今売ると捨て銭みたいなものですから、とにかく我慢して下さい。」と答えた。

控訴人X5は、平成二年一〇月五日、チヨダウーテ株一〇〇〇株を店頭登録の際三六八万円で購入しているが、これについて、Fは、控訴人X5に対し、「あなたに損をさせているお詫びに購入してもらうものである。普通では個人投資家に買えない株である。」と述べた。

(5) 控訴人X5は、平成二年一〇月中旬ころ、Fの後任として控訴人X5の担当となったCと面識を持つようになり、以来一週間に一、二度の割合で電話又は面接により、株式及びワラントの購入の勧誘を受けていた。Cは、平成二年一一月二〇日ころ、控訴人X5に対し、過去の大林組の株式のチャート及びワラントの値動きの資料を持参した上、面談をして大林組ワラントの購入を勧誘した。その際、Cは、控訴人X5に対して、「これだけ金額の大きい損失の穴埋めは単に待っているだけでは駄目である。何かを買って値上がり益をぶつけないと損失はカバーできない。これからは公共投資が膨らんで内需関連株、中でも建設株の値上がりが期待できる。大林組の株価は一〇〇〇円から一四〇〇円の間を上下しており、現在、株価が一一〇〇円である大林組のワラントの値上がりは期待できる。」旨説明した。Cの右ワラントの説明、勧誘は、二日間、のべ約四時間程度にわたってなされた。その結果、控訴人X5は、そのころにはワラントの危険性について十分に認識していたものの、平成二年一一月二二日に、本件大林組ワラント一三〇ワラントを代金一〇七三万一五〇〇円で購入した。

(二)(1)  以上の認定に対し、被控訴人は、「Fは、控訴人X5に対し、平成二年六月一日から同年七月一六日までの間に、面談の上、ワラントがハイリスク、ハイリターンの商品であること、権利行使期限を過ぎれば無価値となること、外貨建てならば為替の影響を受けること、売り手、買い手が被控訴人であるいわゆる相対取引であることを説明した。」旨主張し、原審証人Fも「本件ヨミウリランドワラントを購入してもらう前あたりにワラントの説明をした。」旨供述するが、右証人Fの供述自体、その説明の時期、説明の具体的内容等があいまいである上、反対趣旨の控訴人X5の原審における供述に照らし、容易に採用できない。

また、被控訴人は、「控訴人X5は、株式会社百五銀行から借入れた金員をもって本件ヨミウリランドワラントの購入代金に当てているものであるが、平成二年七月当時、社債の利率は銀行の借入金利とほぼ同じであり(乙七四、七五)、銀行借入金をもって「債券」を購入する経済的メリットはなく、会社経営者である控訴人X5がこの点に関する検討のないまま、ワラントの購入を決断したものとは考えられない。」旨主張するが、平成二年七月当時、社債の利率は銀行の借入金利とほぼ同じであったとしても、控訴人X5は、昭和六三年八月六日に購入し同年一一月一一日に売却した三菱信託銀行転換社債によって、転売利益を得たことがあったこと(乙四)からすれば、借入をしてでも、投資しようと判断したことが格別不合理であるとはいえない。実際、右認定のとおり、控訴人X5が、株式会社百五銀行に対し二五〇〇万円の借入の申込をした際の申込書(甲四九)の資金使途の欄に、「東京読売ランドワラント債購入資金」と、返済資源・方法の欄に「本件債券売却により返済」とそれぞれ記入していたことは、控訴人X5が右のとおりの判断をしていたことを裏付けるものである。

この点、被控訴人は、「一般に、社債と言えば普通社債を指し、特に転換社債を意味する場合にはそれとして断ることが通常である。少なくとも、被控訴人の営業担当従業員は、転換社債を普通社債と明確に区別して、株式やワラントと一括してエクイティと総称している。したがって、Fが、転換社債と同じようなものとして、「社債のようなもの」と説明をしたということはありえない。」とも主張するが、ワラント債や転換社債も社債の一種であることから、Fがワラント債を転換社債と同じようなものと考え(もっとも、Fはワラントとワラント債を誤解していたことが窺える。)、「社債のようなもの」と説明したとしても、格別不自然ではない。

さらに、被控訴人は、「控訴人が本件ヨミウリランドワラントを購入した後遅くとも一週間内に受領したワラント取引説明書には「ワラントは期限付の商品であり、権利行使期間が終了したときに、その価値を失うという性質をもつ証券です。」「ワラントの価格は理論上、株価に連動しますが、その変動率は株式に比べて大きくなる傾向があります。」等と、ワラントの持つ性質、リスクが明確に謳われているにもかかわらず(乙三三)、Fから「大丈夫です。私を信用してください。」と言われただけで、それ以上質さなかったのは不自然である。」旨主張するが、被控訴人の従業員であるFの勧めによって控訴人X5がなした取引は、本件ヨミウリランドワラントの取引以前はいずれも利益を上げていること(乙四)からすれば、控訴人X5が、Fの右言葉を信じたとしても、格別不自然であるともいえない。

被控訴人は、「控訴人X5は、ワラント購入資金を株式会社百五銀行から借り入れており、その際株式会社百五銀行の担当者が納得のいくような説明をしたとみるのが自然である。また、控訴人X5は、Cから大林組ワラントについての詳細かつ具体的な説明を受けているが、その際、Fによるワラントについての説明との相違を主張したり、ワラントについてそのような認識を持っていなかった等と述べたことはなく、かえって、本件大林組ワラントを購入している。Cは、控訴人X5に対し、ワラントについての一般的な説明はしていないものの、大林組ワラントについて詳細かつ具体的な説明をしており、その説明は、ワラントについての一般的な知識がなければ理解できないはずである。」とも主張するが、「株式会社百五銀行支店長代理のJに対し、「ワラント債とは債権のようなものである。」と説明して借入を受けた。」とする控訴人X5の原審における供述に不合理な点はなく、また、すでに本件ヨミウリランドワラントの取引で多額の損失を出し、ワラントの危険性についての認識を有していた控訴人X5が、Fによるワラントについての説明に言及することなく、再度一〇〇〇万円以上の金員をワラントに投資したというのも、前記認定のとおり、控訴人X5がCから「これだけ金額の大きい損失の穴埋めは単に待っているだけでは駄目である。何かを買って値上がり益をぶつけないと損失はカバーできない。」等と説明を受けていたことからすれば、不自然であるともいえない。

(2) 控訴人X5は、「Cが本件大林組ワラントを勧める際に、「株価はもう下がらないから大丈夫です。」と述べた。」旨主張するが、控訴人X5が本件大林組ワラントを購入した平成二年一一月には、それまで購入したワラントが、株価の値下がりとともにすでに一〇〇〇万円を超える損失を計上しており、しかも控訴人X5は、被控訴人から送付された「時価評価のお知らせ」等によってこの事実を明確に認識していたこと(甲四、乙四五)、そのため控訴人X5は、ワラントの価格が当該発行会社の株価に連動して変動することやワラントの持つリスクについてはこれを十分に理解していたこと、控訴人X5の職業、学歴からすれば、株価が当該発行会社の業務実績や、政治、経済情勢等の要素によって上下するものであり、これが「もう下がらない。」等と断定できないことは常識の部類に属するものであること、Cとしても、控訴人X5に対して、右のような不合理な説明をしたとは考え難いこと等からすると、その主張は採用し得ない。

2  そこで、まず、Fによる本件ヨミウリランドワラント取引の勧誘行為の違法性について判断する。

(一) 引用にかかる原判決の説示のとおり、ワラントは、一定の条件で発行会社の株式を引き受けることができる権利であり、一定期間が経過すると無価値になり、価格変動が大きいハイリスク・ハイリターンな金融商品である。

(二) このようなワラントを勧誘するにあたっては、被控訴人又はFは、このようなワラントの特徴及び前記認定の控訴人X5の職業、投資経験、投資目的等に鑑み、控訴人X5がワラントの危険性につき的確な認識を形成するため、①ワラントの意義、②権利行使価格、権利行使期間(権利行使による取得株数)の意味、③ワラントの価格形成のメカニズム、及びハイリスクな商品であり、無価値となることもあることについて十分説明し、控訴人X5がそれらについて的確に認識できるようにすべきであったというべきである。

(三) しかるに、前記三1(一)で認定のとおり、Fは、控訴人X5に対し、本件ヨミウリランドワラントを勧誘するにあたり、電話で「値上がりが確実で大きく見込めるワラント債というものがある。信用取引と違って危険はありません。」と言ったのみで、それ以上に右①ないし③の点につき何らの説明をしなかったものである。

そして、控訴人X5は、①昭和四六年三月にj学院大学経済学部を卒業していること、②本件ヨミウリランドワラントを購入した当時、株式会社k1(従業員三八名、年商五億円)の代表取締役であり、同社から月額一二五万円の給与の支払いを受け、また、月額六五万円の賃料収入もあったこと、③それまでにも被控訴人との転換社債や株式の取引をした経験があること等の事情は存するものの、控訴人X5が、それまで、ワラント取引をした経験がないこと、ワラントには、株式の取引とは違った特質があることを考慮すれば、Fが控訴人X5にワラントを勧誘するに際し、右①ないし③の説明を省略したり簡略にしても差し支えなかったとまでは認め得ない。

そうとすれば、本件ヨミウリランドワラントの取引におけるFの勧誘は、ワラントを勧誘するにあたっての注意義務に違反したもので、違法なものといわざるを得ず、Fの使用者である被控訴人は、Fの違法な勧誘に応じてなされた本件ヨミウリランドワラントの取引により損害を被った控訴人X5に対し、民法七一五条によりその損害を賠償すべき責任を負うというべきである。

3  次に、Cによる本件大林組ワラント取引の勧誘行為の違法性につき判断する。

前記三1(一)で認定のとおり、Cは、控訴人X5に対し、「これだけ金額の大きい損失の穴埋めは単に待っているだけでは駄目である。何かを買って値上がり益をぶつけないと損失はカバーできない。これからは公共投資が膨らんで内需関連株、中でも建設株の値上がりが期待できる。大林組の株価は一〇〇〇円から一四〇〇円の間を上下しており、現在、株価が一一〇〇円である大林組のワラントの値上がりが期待できる。」等と述べて、本件大林組ワラントを勧めたものであるが、控訴人X5が本件大林組ワラントを購入した平成二年一一月には、それまで購入したワラントが、株価の値下がりとともにすでに一〇〇〇万円を超える損失を計上しており、しかも控訴人X5は、被控訴人から送付された「時価評価のお知らせ」等によってこの事実を明確に認識していたこと(甲四、乙四五)、そのため控訴人X5は、ワラントの価格が当該発行会社の株価に連動して変動することやワラントの持つリスクについてはこれを十分に理解していたこと、控訴人X5の学歴、職業を勘案すれば、Cの右勧誘は、断定的判断の提供をしたものとは認められず、違法性はないというべきである。

もっとも、前記認定の事実からすれば、控訴人X5が本件大林組ワラントを購入した動機は、Fの違法な勧誘により購入した本件ヨミウリランドワラントの取引による損失を取り戻すことにあったことが認められ、そうとすれば、控訴人X5が本件大林組ワラントの取引で被った損害についても、Fの違法行為と相当因果関係があると認められる。したがって、被控訴人は、控訴人X5に対し、民法七一五条によりその損害を賠償すべき責任を負うというべきである。

4  損害について

(一) 前記三1(一)で認定のとおり、Fの勧誘により、本件ヨミウリランドワラントは、二五九六万一二五〇円で買い付けられたものであるので、その買付代金に相当する二五九六万一二五〇円は、Fの違法行為による損害であると認められる。

また、本件大林組ワラントの購入についても、Fの勧誘と相当因果関係があるので、その買付代金に相当する一〇七三万一五〇〇円も、Fの違法行為による損害であると認められる。

(二) 前記三1(一)で認定のとおり、控訴人X5は、ワラントの意義やワラント取引の特徴について理解しないまま本件ヨミウリランドワラントを購入したことが認められるが、その原因は、主としてFからワラントの特徴について説明を受けなかったことによるものであるものの、控訴人X5も、年商五億の会社の代表取締役であり、転換社債や株式の取引の経験もあったのであるから、その取引の前にワラント取引説明書等の交付を求め、それをもとにして、ワラントの意義、ワラントの価格とその変動、ワラントが場合によっては投資金額の全額を失うこと等、ワラントの性質につき、正確な理解を得るよう努力すべきであったことを否定することはできない。

もともと、投資家は、自らの判断及びリスク負担により、各種投資商品に対して投資するものであり、その投資判断の前提である投資商品の内容、性質等について調査すべきであって、投資家がこれをなさなかった場合には、その損害の発生について落ち度があったというべきである。

そして、控訴人X5の右の落ち度のほか、Fの勧誘行為の違法性の程度、その後ワラントの危険性を認識しながらも本件大林組ワラントを購入したこと、その他本件に現れた諸般の事情を考慮すると、過失相殺として、控訴人X5の損害額合計三六六九万二七五〇円の五割を減ずるのが相当であり、その損害額は一八三四万六三七五円となる。

(三) 前記三1(一)で認定のとおり、リコーワラントの買付金額の一部である六八二万九二五一円について、本件ヨミウリランドワラントの一部の売却代金から支払われているので、その分は損益相殺されるべきである。その分を控除すると損害額は、一一五一万七一二四円(ただし、本件ヨミウリランドワラントによる損害分は、六一五万一三七四円で、本件大林ワラントによる損害分は、五三六万五七五〇円である。)となる。

(四) 本件と相当因果関係のある弁護士費用は、一一五万円が相当であると認める。

5  控訴人X5の被控訴人に対する不当利得返還請求権の有無(争点6)について

(一) 前記三1(一)で認定した事実によれば、控訴人X5は、Fの勧誘を受け、値下がりし始めた本件ヨミウリランドワラントの一部である三〇ワラントを売却し、代金七三五万二五〇〇円で本件リコーワラントを買い付けたことが認められる。

(二)(1) これに対し、控訴人X5は、本件リコーワラントは控訴人X5の承諾なくして無断で買い付けられたものであると主張する。

(2) しかしながら、被控訴人を通じて行われる証券取引については、逐一取引報告書が顧客に送付されるのであり、本件リコーワラントの買付についても、被控訴人から控訴人X5に対し、平成二年八月三日に同ワラントが買い付けられた旨の記載のある「計算書(取引の明細)」と題する書面(甲五二)が送付されたことは、控訴人X5が自認している(原審における控訴人X5本人)ところ、控訴人X5は、それまでの取引経験等から右書面の記載の意味を十分に認識していたと認められるのに、本件全証拠によっても、控訴人X5が被控訴人に対して、無断売買を理由とするクレームを申し出た事実を認めることができない。

もっとも、控訴人X5は、原審において、「無断取引を知った後、Fから電話でリコーの方が儲かると言われ、それでいいと判断した。」旨供述するが、七〇〇万円以上の商品を無断売買された者として、右の態度は不自然であって、信用できない。

そうとすれば、本件リコーワラントについて、Fによる無断売買はなかったというべきである。

(三) したがって、控訴人X5の被控訴人に対する不当利得の返還請求は理由がない。

四  以上によれば、まず、控訴人X2の請求は、被控訴人に対し、三九七万五〇二四円及びこれに対する平成元年三月九日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は棄却すべきである。

次に、控訴人X5の請求は、被控訴人に対し、一二六六万七一二四円及び内金六一五万一三七四円に対する平成二年七月一九日から、内金六五一万五七五〇円に対する同年一一月二八日から各支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は棄却すべきである。

第四結論

よって、右と一部異なる原判決を変更することとし、訴訟費用の負担につき民訴法六七条二項、六一条、六四条、六五条一項を、仮執行宣言につき同法二五九条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 寺本榮一 裁判官 下澤悦夫 裁判官 内田計一)

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